第11章 珈琲色
たまねぎまみれの手をぐいっと翔くんの方に伸ばして、腕を広げた。
「はい。ちゅーするの!」
「はいはい…もうわかったって…」
冷蔵庫をバタンと閉じると、翔くんは智をぎゅうっと抱きしめた。
「ただいま、智くん」
甘い声で囁くと、ちゅっとほっぺたにキスをした。
「いい子にしてた?」
「子供じゃないんだから…」
なのに唇にキスしてもらえなくて不満だったみたいで、また口を尖らせてる。
「はいはい、智くんは下の毛もぼーぼーだしズルムケだし大人だよねえ…」
「そういうことを言ってるんじゃないんだよ!櫻井くん!」
んっと言って唇を翔くんに向けて突き出して目を閉じた。
「ぶふぉっ…」
翔くんは笑いを堪えながら、ちゅっと軽いキスを落とした。
「えへぇ」
智はにた~っと笑うと目尻を下げて嬉しがる。
「……」
思わずガン見してる俺と翔くん…
わかってんだよ…これがこの人が無意識にやってる人誑し術だってさ…
でも、どっぷり俺も翔くんも嵌ってる。
「おかえり!翔くんっ」
「うわお!待って、そのたまねぎ…」
抱きつこうとした手にはまだいっぱいたまねぎが付いてる。
「ああ…ごめんごめん。じゃあやっつけちゃうね」
上機嫌でまな板の前に戻っていった。
トントントントン…今度は人参とピーマンをみじん切り。
「なあ、潤。あれ、なにになるの?」
「ん?ピラフにする予定」
「おお…じゃまいっか…あんくらい細かくても…」
「まあ、あれが趣味なんだからやらせてあげよ?」
「ああ。そうだな」
翔くんがリビングでお父さんの如く夕刊を読み始めるのと同時に、俺もキッチンへ入って夕飯の支度を開始する。