第7章 グレイ scene5
真夜中、くたくたになったにいちゃんが帰ってくる。
狭いアパートだから音は筒抜けで。
布団の中で寝たふりをしていると、にいちゃんは俺の顔を覗いて、安心したように息を吐き出す。
「ただいま…」
そっと頬をなでていく手は、大きくて
温かい…
「ごめんな…寂しい思いさせて…」
優しい、声…
にいちゃん…にいちゃん…にいちゃん…
もっと傍に居て…
もっと一緒に居て…
僕のしあわせは…
にいちゃんと一緒にいることだよ
「にいちゃん…」
頬に置かれた手を握る。
「…起こしたか?ごめん…」
「ううん…起きてた…」
「どうし…」
力いっぱい、その手を引っ張った。
「うわっ…」
僕の上に倒れ込んできた兄ちゃんの身体からは、機械油の臭がする。
「にいちゃん…」
「やめろ…離せ…」
「にいちゃんっ…お願いっ…」
「だめだ…こんなこと、駄目なんだ」
離れようとする身体を抱き寄せて、上着を無理やりはだけさせると首筋に吸い付いた。
「やめ…」
「お願い…にいちゃん…愛して…?」
愛してる…にいちゃん、愛してる…
「んっ…あぁ…もっと…」
僕の上で揺れ動くたくましい体をぎゅっと抱きしめると、しあわせだった。
「にいちゃん…しあわせだよお…」
にいちゃんは、何も言わない。
だけど、知ってる。
にいちゃんも僕のこと、愛してる。
その目が、唇が、手が…全部僕のことを愛してるって叫んでる。
「くっ…あ…イっちまう…」
「僕も…あぁ…にいちゃん…にいちゃんっ…」
「あああっ…」
「愛してるよぉっ…」
今日も、空は青かった―――
いつものように夜、にいちゃんを待っていた。
夜10時を過ぎた頃、玄関のドアを激しく叩く音がした。
「どちらさま…?」
それは、にいちゃんの同僚で。
一度家に遊びに来たことのある人だった。
「工場で大規模な事故があったんだ…おまえの兄ちゃんも巻き込まれた…」
にいちゃん…
にいちゃん…
なんで、僕を置いていくの…?
なにがいけなかったの…?
僕達が…兄弟だから、いけなかったの…?
にいちゃん…
何か言ってよ…