第6章 ショコラ scene4
「いえ…奥様、それはあんまりです…!」
老医師が最近引いたばかりの電話を掛けながら汗をかいている。
この寒いのに、顔を真赤にして…
「ですが……ええ、それはさせてもらいますが…」
電話の相手は、京都の奥様だ。
一体どうしたというんだろう。
電話を終えた老医師は、わたしの顔をみると広くなった額の汗を拭いた。
「…どうかしたんですか?」
「純一郎様の骨…あれはいらないそうだ…」
「えっ…なんで…」
「金は払うから、こちらで墓を建てて欲しいと…そう言われたよ…」
「そんな…だって…」
「やっぱりあの話は本当だったんだな…」
「なんですか…?」
「…純一郎様は、旦那様の種じゃなかったという噂があった…」
だから、京都の旦那様のご実家に居ることができなくなって東京に出てきたのだと…
「ご次男なのに、柊一朗だなんておかしいと評判だったんだよ。おまえ、気づいていなかったのかい?」
私は純一郎さまの看病のためだけに雇われた身だから…
そんなこと、考えてもみなかった。
今日の離れの掃除を終えたら最後のお給金を、旦那様の遠縁に当たる老医師に預けてあるから取りに来るようにと言われ、取り残されていた純一郎さまの骨箱を抱えてやってきたのだ。