【忍たま乱太郎】~空蝉物語~【兵庫水軍中心トリップ逆ハー】
第1章 兵庫水軍との邂逅
水軍館の裏手。
壁に寄り添うようにしながら、鬼蜘蛛丸が
木桶に頭を突っ込み念仏のような呻き声を上げていた。
彼の特異体質である陸酔いが発生したのだ。
こうなると、かなりの二枚目も台無しで
髪の毛もふやかした海藻の様になってしまっている。
「はぁぁあ…。やっぱり陸に上がると駄目だなぁ」
『立派な海賊の証』とは皆に言われるものの
こうなると、何もできなくなってしまう。
他にも、陸酔い体質の海賊は何人かいるが…。
迷惑かけてしまうからなあ。
はあと鬼蜘蛛丸が大きくため息をつくが、
また直ぐに悪心が巡ってきた。慌てて桶に顔を突っ込む。
―と。
…あれ?
背中に温かみを感じた。それもとても優しげな。
労るように、円を描き動かされるそれが誰かの
手である事に鬼蜘蛛丸は気がつく。
手当て、とは良く言ったものだ。
何度かさすられる内に不思議と気持ちが
軽くなるような気がしてきた。
「ふう…。有難う、少し楽になった―」
そう言いながら、振り向くと鬼蜘蛛丸は
目を丸くする。
「あ、いきなりすいませんっ。大丈夫ですか?」
「麻言じゃないか。どうしたんだ?こんな所で…」
「実は白南風丸がお風呂に使う薪を確認しに一旦家に向かってくれたんで、
館の入り口で待ってたんですが―」
呻き声が聞こえて、とそこまで言うと
鬼蜘蛛丸ががっくりと頭を垂れる。
「…すまない。迷惑かけてしまって」
穴があったら入りたいとでも言うような、落ち込みようだ。
しかし、麻言は「とんでもない!」と頭を振った。
「辛い時は甘えても良いと思うんです。さじ加減…難しいですけどね」
そう言って麻言は笑う。
鬼蜘蛛丸はその笑顔に一瞬だけ陰りが混じったような
気がして、少し気になったが
「お前は優しいな。有難う…」
口には出さず、
代わりに微笑んで感謝の言葉だけ口にした。