【忍たま乱太郎】~空蝉物語~【兵庫水軍中心トリップ逆ハー】
第1章 兵庫水軍との邂逅
その上あの者のいる場所は周囲にも沢山岩礁がある。これ以上船での接近は危険だ……。
泳いで行くにも遠い上、近日の鮫の脅威が完全に去ったわけじゃない。
――だが……、
「お頭……っ! 私が――「お頭っ、私に行かせて下さいっ!」
舳丸を遮って、まだ海中にいた重が声を上げた。
「なっ! 重……っ!」
「兄貴っ大丈夫ですっ! 俺いけますっ。お頭……っ!」
「――よしっ、行ってこい重っ!」
動揺し咎めるような声を上げる舳丸に対し、
そう言い切った重へ兵庫第三協栄丸は豪快に送り出す。
「……っ! 有難うございます!!」
顔を輝かせて礼を言った重はすぐさま、
正に文字通り水を得た魚のごとく北西の岩礁へ向かって泳ぎだした。
後ろで舳丸が何事か叫んでいたが、もう重の耳には届いていなかった。
――舳丸の兄貴っ、ゴメン。後で説教ならちゃんと聞きますからっ。
泳いでる最中、顔に似合わず心配性な兄貴分へ重は内心謝っていた。
ザァァァン……ザアァァァン……
――絶え間なく波の音が聴こえる。
うん、確かに波の音だ、解る。
きっと何処かで聴いたことがあるんだろう。
周囲の岩礁に道を阻まれ、
目的地付近まで随分と時間がかかった事に重は焦燥していた。
ここには確か舳丸の兄貴と何度か足を運んだ事はあるが――
「ったく、海賊泣かせだよなここは!」
帰りの体力を温存させたい所だったが、
岩礁の多いこの場所ではずっと泳いではいられず、
岩礁を登っては海へ飛び込みを重は何度か繰り返していた。
「人……っ人……」
そして登る度に、見逃さないように目的の人物を探す。
この辺にまで気づいたが、
重はその人物がどのような容姿をしているのか訊くのを忘れていたのだ。
……小柄な体躯だったらいいが、大男とかだったらどうしよ。
しかも、きっとこんな大事を訊き忘れていた事で帰ったら兄貴に大目玉だろうなあ。
気が重くなりつつも、周囲をまんべんなく見回す――と。
「――あっ! あれか…!」
ようやく目的の人物を発見した。