第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
どうして、こんな小さな家の中で、彼を傷つけることすらできないのか。
「離せ・・・!!」
「そんなに興奮すんじゃねェよ、クレイオ。ベッドの上でもそんな顔を見せたことはねェくせに」
生臭い息を耳元にかけてくる男の声に、鳥肌がたった。
クレイオを気に入り、毎日のように身体を買いにくる手下。
これまでは耐えてこられたが、今は身体を触られるだけで吐き気を覚える。
「なんだ、“海賊”の匂いがするな。おれが塗り替えてやる」
「やめて!! 誰か・・・誰か助けて!!」
しかし、家の外では人が集まっているはずなのに、誰も助けに来てくれる気配はない。
裏町では、マフィアの力がどれほどのものかを知っているため、手出しをしようという者は一人もいなかった。
副社長は、手下に組み敷かれているクレイオを見下ろすと、額を靴で踏みつけながら冷酷に笑う。
「じゃあな、クレイオ。こいつとイイコトしている間に弟が死なねェよう、せいぜい天国の親父とお袋にでも祈っておけ」
「ああ!!!」
事故を起こした張本人。
父と母が死ぬ原因となった張本人が、家から出て行ってしまう。
彼に一筋の切り傷もつけられず、自分はこんな屈辱を受けなければいけないのか。
「いやだ・・・!! 弟の前でだけは・・・!!」
「いいねェ、その顔。おい、もっと啼けよ」
洋服を引き千切られ、脚を無理やり広げさせられる。
なすすべもなく犯されようとしているクレイオの目に、ベッドの上の弟が微かに動くのが見えた。
「・・・お・・・ねえ・・・ちゃん・・・・・・」
その瞬間、クレイオの両目から涙が溢れてきた。
そして、無意識のうちにある男の名を叫ぶ。
「ゾロ!!」
たとえ貴方が、世間のいう“残忍な海賊”だったとしても。
「助けて、ゾロ!!」
私にはもう、貴方しかいない。
それは、クレイオの悲痛な叫びだった。