第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「お金のためとはいえ、どうしてそんな酷いことができたの・・・? お父さんは貴方のことを信頼していた・・・!」
「ああ、つくづくバカな野郎だと思ったぜ」
「私は・・・私達が貴方の人生をも狂わせたと思っていたから、なんでも言うことを聞いてきた───」
すると、男は肥えた腹を揺らしながらクレイオに近づき、顔を握りつぶすように頬を掴んだ。
「おいおい、何言ってるんだ。おれは感謝しているくらいだ。おかげで、“本業”が潤ったんだからな」
炭鉱会社の副社長は表向きの顔。
彼は当時から、暗黒街に君臨するマフィアだった。
「会社が倒産して、どうだ? 島の経済は揺らぎ、政治家や海軍など社会の支配階層を脅すことで、おれは富と力を得た」
「・・・・・・・・・・・・」
「ロロノア・ゾロの賞金が手に入らなかったのは残念だが、これからもお前には小銭を稼いでもらう。お前にはそれしか生きる道がないからな」
クレイオは、怒りで全身が震えた。
“不運”だと思っていたあの事故は、“必然”だった。
父は何も知らず、全ての罪を背負って自殺したのか。
自分は何も知らず、懺悔になるならばと暴力に耐えてきたのか。
この全身に深く刻まれた傷痕はもう、一生消えないだろう。
「許さない・・・! よくも・・・よくも、お父さんを!!!」
弟のロープを切ったナイフを掴み、“副社長”に切りかかった。
だが、刃は届くことすらなく、彼の手下に身体を拘束される。