第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「ダメよ、しっかりして! もうすぐお医者さんが来てくれるからね!」
「・・・・・・・・・」
しかしもう姉の声は届いていないのだろう。
弟は目を開けることなく、今まさに命の火が消えようとしている。
すると、男は可笑しそうに笑い声を上げた。
「医者だァ? お前達を診る酔狂な医者が、この島のどこにいる?」
「“この島”にはいない・・・でも! 今、この島に来ている海賊船にはいる!!」
「海賊・・・? 海賊が人助けなんざするか!!」
「少なくとも!」
“お前の力じゃ、おれを殺せねェだろうが、動けなくさせるくらいはできるだろ。そしたら、おれを海軍に引き渡せばいい。それで金は手に入る”
「私が出会った海賊は、私を気にかけてくれる!!」
“お前が抱えているもん、全部おれに話せ”
「私の言葉に耳を傾けてくれる!!」
“お前、身体冷えてんじゃねェか・・・裸でいるからだ、アホ”
「私を“人間”として扱ってくれる!!」
自分と弟を助けても、ゾロにはまったくメリットがない。
それでも彼は、ここに仲間を連れてきてくれると言ってくれた。
自分だって海軍から追われる身のはずなのに。
「私は・・・ロロノア・ゾロという海賊を信じたい!!」
たとえ最後は裏切られたとしても。
自分の過去を聞いてもなお、一晩中抱きしめてくれていた彼の温もりは本物だった。
その言葉がよほどケッサクだったのだろうか。
男は高笑いしながら、クレイオとその弟を見た。