第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
キーコ・・・
キーコ・・・・・・
何かが揺れる音。
まったく心当たりのないそれに、異常なほど胸騒ぎがする。
「弟に・・・何をしたの・・・?」
「自分の目で確かめてみろ」
「・・・!!」
ガチャンとテーブルの上に置いてあったコップが床に落ちて割れた。
家具にぶつかりながら寝室のドアを開けると、残酷な光景が目に飛び込んでくる。
キーコ・・・
キーコ・・・・・・
「・・・ぁ・・・ッ・・・」
天井に打ち付けられたロープに両腕を吊るされた、やせ細った少年。
まるで絞首刑にされたかのような姿の彼は、クレイオの弟だった。
「きゃあ!!」
悲鳴を上げながら弟に駆け寄るクレイオを、男達は薄ら笑いを浮かべながら見ていた。
「なんてことを・・・!!!」
「安心しろ、まだ生きている。“まだ”、な」
見れば、確かにまだ微かだが息をしている。
だが、吐血のあとが寝間着の首周辺を真っ赤に染めていた。
「ダメ・・・死なないで!!」
必至に抱き上げながら、手首を縛っているロープをナイフで切ると、意識を失った身体がドサリと落ちてきた。
普通の8歳の子どもと比べると、半分ほどの体重しかない弟。
容易に受け止められたということが、余計に悲しかった。
「どうしてこんな酷いことを・・・!」
「酷い? バカを言っちゃいけねェ。そいつはもう死ぬんだ、最後ぐらい“起き”上がりたかったんじゃねェのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオは唇を噛みしめながら、弟をベッドに寝かせた。
しかし、顔が真っ青に変色し、ところどころ裂けた唇からは弱々しい息が漏れているだけだ。