第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「帰ったか、クレイオ」
最初に声をかけてきたのは、副社長だった男。
冷酷に笑いながら、事態を呑み込もうとしているクレイオを見据える。
「お前、ロロノア・ゾロの首はどうした?」
「そ・・・それは・・・」
「おれは言ったよな? そいつの首を取ってきたら、娼婦を辞めさせてやると」
「ごめんなさい・・・」
彼を傷つけることはできない。
自分の気持ちを悟った瞬間から、クレイオは娼婦として生きることを決意した。
「これからも娼婦として働きますので、どうか許してください」
「娼婦、ねェ・・・」
男は煙草をふかしながら、クレイオを濁った目で嘗め回すように見る。
「店に聞けばおめェ、ロロノアと仲良く一緒に部屋から出てきたそうじゃねェか」
「・・・・・・・・・・・・」
「娼婦をやるなら、それ相応の態度ってモンがあるだろうがよ」
低く唸るようなその声は、相手に恐怖しか与えない。
父の“右腕”として働いていた頃は、このような物言いをする男だとは考えもつかなかった。
あの事故は、人の人格さえも変えてしまったのか。
「ロロノアの首を取れなかったことは謝ります。その分、働きますからどうか───」
「ああ・・・そうしてもらいたいもんだ。こちらとしては、お前を縛り付けておくための“駒”が一つ、消えそうなんでな」
「え・・・?」
その瞬間、ゾワッと悪寒が走る。
弟が寝ているはずの寝室から、微かに音がしていることに気が付いた。