第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
“これが私の家の地図よ。先に帰っているね”
売春宿を出たところで、クレイオはゾロと別れた。
家で一人待っている弟のことが気になっていたし、ゾロが信頼のおける医者を連れてきてくれると早く知らせたかったのもある。
以前は炭鉱町の中心にあったクレイオの生家は今や取り壊され、現在住んでいるのはこの島でもっとも治安が悪いとされる裏町だった。
傾きかけた粗末な家には、ダイニングと寝室が一つ。
ベッドには弟が寝ているため、クレイオが横になるのは床に敷いた薄布団の上だ。
それでも、姉弟にとっては心休まる我が家。
どんなにバカにされようと、白い目で見られようと、クレイオにとっては大切な場所だった。
その家路を辿るクレイオの足取りが、この5年間で一番軽い。
「ゾロが信頼する医者に診てもらえる・・・!」
たとえ、治る望みが薄くても良かった。
こうして自分と弟のことを気にかけてくれる人がいる、それだけで嬉しい。
しかし、何故か家の前に人垣ができているのを見た瞬間、クレイオの顔が曇った。
「どうしたの・・・?」
「・・・クレイオ・・・」
近所の住民の一人がクレイオに気が付き、気まずそうに言葉を濁らせた。
その瞬間、嫌な予感が脳を駆け巡る。
「ど・・・どいてください!!」
人を掻き分けながらドアを開けると、狭い家を占拠するかのように数人の男がドカリと椅子に座っていた。