• テキストサイズ

【ONE PIECE】ひとつなぎの物語

第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~







この5年間、ずっと思っていたことがある。

もし、炭鉱事故が起こっていなかったら───


父は自らの命を絶たずにすんだ。
母は爆発に巻き込まれて死なずにすんだ。
弟は不治の病にかからずにすんだ。

この島にいたクレイオの親戚は皆、事故が起こったすぐ後に別の島へ移住してしまった。
唯一残ってくれた祖母も、3年前に死んだ。

弟まで失ったら、自分はこの島で本当に独りぼっちになってしまう。

だが、日に日にやつれていく弟をどうしてやることもできなかった。
これ以上の薬を用意してやることも、栄養のある食事を与えることもできなかった。

そんな日々の中。
出会った海賊はこう言った。


「おれが知っている中で一番の名医に会わせてやる」


朝日の下で身支度を整えるクレイオに向かって、二ヤリと口の端を上げる。


「おれ達の船医だ。どんなケガも、病気も治してくれる」


仲間への絶対的な信頼を感じさせる言葉。
ゾロにここまで言わせるとは、いったいどのような人物なのか。

「本当に・・・?」

「ああ。医者がたくさんいる島出身の奴だ。信じろ」

「・・・ありがとう!」

昨晩はあれだけ涙を流していたクレイオの顔には、笑みが浮かんでいた。

たった一晩、誰かの優しさに触れたところで、5年間蓄積された痛みが消えるはずもない。
しかし、ゾロの申し出は、そんな彼女に一筋の希望を感じさせるには十分だった。




/ 1059ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp