第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
今朝、ゾロが売春宿を去ったあとで、副社長だった男に条件を突き出された。
『クレイオ。お前、“麦わらの一味”のロロノア・ゾロに気に入られたようだな』
そこで見せられたのは、2枚の手配書。
モンキー・D・ルフィとゾロのものだった。
『もし、ロロノア・ゾロの首を取ることができたら、お前を開放してやろう。“麦わら”の首までありゃ、弟の手術代も出してやる』
ゾロを海軍に突き出せば、娼婦を辞めることができるばかりか、弟の命も助かるかもしれない。
その条件を前に、クレイオはナイフを手に取るしか選択肢はなかった。
「本当にごめんなさい・・・貴方の仲間・・・ロビンさんは、お見通しだったんでしょうね・・・」
“私は・・・敵意に囲まれても生きることに必死な人の気持ちが、ほんの少し分かるだけよ”
「バーカ。どのみち、おれがお前なんかにやられるか。気にすんな」
「ゾロ・・・」
ポンポンと頭を撫でてくるゾロに、クレイオの顔にようやく笑みが浮かんだ。
それを見た剣士の顔もほんの少し和らぐ。
「さっさと寝ろ。このまま抱いててやるから」
「ゾロもここで寝てくれるの?」
「ああ。もう床の上は飽きたからな」
二ヤリと笑って、クレイオの顔を覗き込む。
「あと、明日になったらお前に会わせてェ奴がいる。だから、おれが起きる前に消えんじゃねェぞ」
13歳で娼婦になったクレイオには、一つだけ信念があった。
たとえ一晩中、客に抱かれ続けても、朝は一緒に迎えない。
朝日の下でだけは“普通”の女でいたいという、最後のプライドだった。
しかし、この日。
「・・・わかった」
クレイオは初めて、男の腕の中で眠りについた。
太陽が再び東の空から姿を現すまで───