第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
轟轟と燃え盛る炎は、地獄の業火のごとく。
少女はあの日、人間がいとも簡単に死ぬことを知った。
子どもの力でも、首筋の頸動脈を確実に捉え、斬ることができれば真っ赤な鮮血が噴出し、人形のように倒れていく。
怖いとも、憎いとも思わなかった。
ただ、赦せなかった。
憎しみのあるところに、愛をもたらす人になりなさい。
絶望のあるところに、希望をもたらす人になりなさい。
闇のあるところに、光をもたらす人になりなさい。
そう教えられて育った少女。
しかしその心には憎しみ、
その目には絶望、
その頭上には闇しかなかった。
誰よりも信心深かった母を魔女に仕立て上げ、磔にした村人を赦すことなど到底できない。
それも神のご意志というならば、こんな理不尽な世界を壊すため、悪魔に身も心も捧げよう。
憎しみと、絶望と、闇に囚われた少女の願いが聞き届けられたのか。
燃え盛る炎の中から、一人の男が現れた。
“クレイオ”
男は何故か少女の名を知っていた。
“貴方は・・・だぁれ・・・?”
少女が問いかけるも、彼は何も言わず、汚い血が滴る剣を鞘にしまう。
そして、大きな手を差し出した。
“おれと一緒に来い”
黒髪、鋭利に整った顔立ち。
大きな羽があしらわれた銃兵帽子に半分隠れた瞳は、まるで鷹のように鋭かった。
そう、一目見て分かった。
彼こそが“悪魔”なのだと。
“・・・・・・・・・”
悪魔は少女を抱き上げると、炎から守るように腕の中に包み込み、恐れることなく業火の中を歩いていた。