第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
ベッドの上には、裸の娼婦と服を着た海賊。
「だが、分からねェ・・・」
海賊は眉根を寄せながら、娼婦を見つめた。
「なぜ逃げない? この島にいてもお前は恨まれるだけだろ」
「・・・・・・・・・・・・」
「出る方法はいくらでもあったはずだ。それをなぜ、娼婦になってまでこの島で生きようとする」
別に“娼婦”を蔑んでいるわけではない。
ただ、ゾロには理解ができなかった。
身体に傷を重ねても、人の恨みから逃げない理由を。
するとクレイオはゾロの腕の中で目を閉じた。
「さっきも言ったでしょう・・・私には“守りたい人”がいるって───」
そう。
母が自分の命と引き換えに守った、この世界でたった一人の肉親。
「弟は・・・多分、もう長くない」
それはもしかしたら、炭鉱とともに散っていった父と母のように・・・クレイオと弟に“最初”から定められた運命だったのかもしれない。
「“塵肺”っている? 炭鉱に生きる人間ならば、覚悟しなければいけない病気よ」
「じんぱい・・・?」
「粉塵を吸って、それが肺に溜まることで引き起こされる病気のこと。本来は炭鉱で長年働くことでかかるらしいんだけど・・・」
あの事故で、3歳の身体の許容量を超える粉塵を吸ってしまったのだろう。
「両親が亡くなって少し経った頃から、咳が止まらなくなって・・・医者に診てもらったら、塵肺だって・・・」
一度、塵肺を発症したら完治はない。
少しずつ、少しずつ、死を待つだけだ。
「でも、だからって諦めることはできない。もしかしたら・・・いつか治してくれる名医に出会えるかもしれない」
世界は広いんだ。
どこかにきっと、“この世に治せない病気などない”と言って、弟の頭を撫でてくれる医者がいるかもしれない。