第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
そして3日目の朝、父はクレイオにこう言った。
『クレイオ、私はお前に謝らなければならない』
この3日間で全ての髪が白髪となってしまった父は、娘に深く頭を下げた。
『一番つらい仕事をお前にやってもらいたい』
『一番・・・つらい仕事・・・?』
『でも、クレイオならきっとそれができる。お前は母親によく似ているからな』
命をかけて息子を守った母。
彼女と同じ強さと優しさを持つクレイオならば───
父は娘を抱きしめ、そして何度も何度も“愛している”と繰り返した。
それから数時間後。
会社の前には多くの人が集まり、事故の様子を見守っていた。
坑内に残された人の家族もいる。
また、炭鉱の様子は映像伝電虫で島中に流されていた。
そんな彼らの前に立った父は、深々と頭を下げた。
『皆様にご理解いただきたいことがあります!!』
これだけの事故を起こした張本人が何を言うのか。
誰もが固唾を飲んで、次の言葉を待った。
『このままではさらに深刻な事態を招きかねない。また、坑内には生存の可能性が少ないと判断したため、炭鉱に注水し鎮火させていただく!!』
その瞬間、すさまじい悲鳴と嗚咽、罵声が山に響き渡った。
まだ生きているかもしれないのに、注水したら溺れ死んでしまう!
事故を起こしたばかりか、微かに残る家族の希望まで奪うつもりか!!
悪魔め!!
トンネルの前には、注水作業を行う海軍が並び、“合図”を待っている。
父はクレイオを隣に立たせると、自分は土下座し、額を地面にこすりつけた。
『申し訳ない・・・だが・・・』
それでも、父の決断は揺るがない。
『皆様の大切な命・・・“道連れ”にさせていただきます!!』
島の全ての人間の恨みを買う言葉を吐き、父はクレイオを見上げた。
そして、最後の言葉を発する。
『クレイオ・・・誕生日おめでとう』
奇しくもそれは、クレイオの生まれた日。
父は静かに銃口を口に含むと、引き金を引いた。