第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「弟は・・・多少の火傷を負ってはいたけれど、ほとんど無傷に近い状態だった。お母さんが身を投げ出して守ったんだと思う」
───本当に強く、優しい母だった。
できることなら・・・最後、何を伝えようとしていたのか聞き取ってあげたかった。
「父はそれから、近くの炭鉱に応援を求めて・・・“調査救出隊”を作ったの」
妻を失った悲しみに暮れる暇もなく、父は一人でも多くの人間の命を救うため、必死になっていた。
だが、それが全ての間違いだった。
「とにかく火災を止めなくてはいけなかったし、坑内の被害状況も分からなかった。だから、200人の調査救出隊を送り込んだ」
その時、坑内は誰も予想をしていなかったほどのガス濃度で、調査救出隊のほとんどが戻ることはなかった。
「全てが最悪の結果に繋がっていた。焼死・・・粉塵による埋没死・・・ガスによる中毒死・・・でも、外からは被害の状況が分からなかった」
それから2日間、人々は帰ってくることのない炭鉱夫達と、調査救出隊を待ち続けた。
その間、空が昼夜問わず真っ赤に燃えるような色をしていたことを、クレイオは覚えている。
「そして、3日目の朝・・・父はある決断を下さなければいけなかった」
調査すらできず、坑内の状況が分からない。
事故が発生してから数日が経っているというのに、坑内ではいまだ小規模な爆発が続いている。
このまま放っておいたら、さらに大きな事故に繋がりかねない。
周囲の炭鉱の被害も拡大するだろう。
それだけではない、会社が存続できなくなり、この島の経済に大きな打撃を与えることになる。
父は、決断した。
生存者の可能性は残されているが、坑内への通気を止め、入り口から注水して鎮火させる。
それは、生死不明となっている300人の命を切り捨てる決断だった。