第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
「採炭中にガスの突出事故が起こって・・・そのガスに引火し、坑内火災が発生した」
たった、数分の出来事。
爆発時、坑内では約200人の炭鉱夫が作業しており、父はすぐに全坑内員に退避命令を出した。
「自力で脱出できた人もいた・・・けれど、中にまだ100人近い人が残っていた・・・」
「お前のお袋と弟は・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
トンネルから立ち上がる煙とガスで、あれほど快晴だった空は濁り、真っ黒な雲で覆い尽くされていた。
狂ったように叫ぶ人々。
皮膚を焼く熱風。
目を開けていられないほどのガス臭。
『お母さん! お母さん!』
トンネルから逃げ出してくる人の中に、母と弟の姿を探す。
すると、髪を振り乱し、煤なのか火傷なのか分からないほど顔を黒くした人が、幼い子どもを抱きながら走ってくるのが見えた。
『お母さん!?』
クレイオが悲鳴を上げながら近寄ると、子どもをしっかりと抱いた“その人”は何かを口にした。
『ヒュー・・・ヒュー・・・』
喉を焼かれてしまったのだろう。
声を出すどころか、呼吸すらできていない。
しかし、その人が“母親”であることは、間違いなかった。
抱いていた子どもをクレイオに手渡すと、まるで安心したかのようにその場に崩れ落ちる。
そして、そのまま息を引き取った。