第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
シンと静まり返る部屋。
太陽が完全に沈むと、ゾロは壁に取り付けられているランプに明かりを灯した。
クレイオはベッドの上で俯いたまま動かない。
何か、話すためのキッカケを与えてやることができればいいのだろうが、生憎、ゾロはそこまで器用でも、話し上手でもない。
ただ黙って床に座り、クレイオの口が開くのを待つことしかできなかった。
どれほどそうしていただろう。
「ゾロには・・・守りたいものってある?」
それは、前触れもなく始まった。
ゾロは顔を上げず、床の板目をじっと見つめながらその問いかけに答える。
「守りたいもの・・・? さあ・・・考えたこともねェな」
それは嘘だ。
もしくは、自覚していないだけかもしれない。
“守りたいもの”と聞いた瞬間、ゾロの瞳はベッドの上に置いたままになっている「和道一文字」に向けられていた。
亡き親友への誓い。
仲間の誇りと志。
三本の刀で守るのは、己の野望だけではない。
「私には・・・守りたい人がいる」
裸の娼婦は、声を震わせながらそう言った。
それは、誰かを守るためのものはおろか、自分の身を守るものすら持たない、無防備で弱弱しい姿だった。