第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「おれが気づかねェとでも思ったのか」
二つ並べられた枕に目を向けるゾロ。
「右側の下にナイフが隠されている・・・お前、それでおれを殺すつもりだったんだろ」
「・・・あ・・・」
そうと知っていて、クレイオの目の前でシャツを脱いだというのか。
自ら、三本の刀を外したというのか。
ゾロはクレイオを押さえつけていた手を放すと、右側の枕を床に落とした。
すると、刃渡り20センチほどのナイフが姿を現す。
「いつ・・・分かったの?」
「この部屋に入った時だ」
武器は、“気配”で分かる。
それにクレイオがわずかに漂わせていた、“ゾロを殺さなくてはいけない”という切羽詰まった思いも。
すると、クレイオの瞳から堰を切ったように涙が溢れ出した。
「ごめんなさい、ゾロ・・・!」
貴方が絶頂を迎える瞬間、その喉元に刃を突き立てようとしていた。
そうするしか他に道は無かった。
「懸賞金が・・・欲しかった・・・」
6000万ベリー・・・いや、それだけじゃない。
「貴方だけでなく・・・“麦わらのルフィ”の首も・・・」
娼婦の流す涙に、嘘は感じられない。
嘘の方がまだマシだった、とゾロは思った。
このナイフを隠した時、クレイオは相当追いつめられていたのだろう。
それを思うと、怒りすら込み上げてくる。
「───お前にルフィの首を取ることはできねェよ」
ゾロはゆっくりとベッドから降りると、刀はそこに置いたまま、床にドカリと座った。