第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
露わになったゾロの上半身に、クレイオは言葉を失った。
左肩から右腰にかけて走る、大きな縫合痕。
身体を真っ二つに斬られたようなその傷は、命にかかわるものだっただろう。
これほどの怪我を負っても生きている・・・
いや、これほどの怪我を負うような境遇にいるゾロ。
その目には狂気すら感じ、“怖い”と反射的に思ってしまう。
「・・・どうして震えている。怖いのか?」
誘ってきたのはお前だ、何をされても文句は言えないはず。
「お前、その程度の覚悟でおれを誘惑していたのか?」
「・・・ッ」
手の力があまりにも強く、押さえつけられている肩の骨が軋んだ。
催淫効果があるとされる月下香に、首を伝う冷たい汗の香りが混じる。
ゾロは痛みと恐怖で胸を大きく上下させているクレイオを見下ろしながら、静かに口を開いた。
「お前・・・その程度の覚悟で、おれを殺そうとしていたのか?」
その瞬間、クレイオの瞳に絶望の色が浮かぶ。
「ゾ・・・ロ・・・」
太陽が山の向こうに沈み、男と女が欲情をぶつけるための部屋はいつしか、暗闇に包まれていた。