第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
三つのピアスが揺れる耳たぶに唇を這わせながら、筋肉の張った背中を撫でられると、まるでそこに性感帯があるのかと錯覚するほど身体の芯がゾクリとする。
「おい・・・どういうつもりだ」
密着した裸の身体から感じるのは、冷たいリズムで脈打つ心臓の鼓動。
ゾロの中に眠っている潜在的な欲求を引き出そうとしている。
「どういうつもりって・・・私は娼婦よ」
男を深い悦へと誘う、淫女だ。
だが、“客”であるはずのゾロとは決して目を合わせようとしない。
緑髪の剣士は、徐々に部屋に影を落とし始める部屋を見渡した。
そして、ある“一点”でその視線が止まる。
「・・・・・・・・・」
なかなか反応を見せないゾロに業を煮やしたのか、クレイオは声を震わせながら呟いた。
「どうして・・・私を抱いてくれないの?」
「・・・あ?」
「私に魅力が無いから・・・? 私が穢れているから・・・?」
シャツ越しに胸の突起を撫でながら、ゾロの表情を確かめることもなく、苦しそうに眉根を寄せる。
「それとも、男性の方に興味があるから・・・?」
次の瞬間、クレイオの裸体が宙に浮いた。
声を上げる暇すらなく、ものすごい力でベッドに押し倒される。
「・・・お前に魅力が無いと思ったことはねェ」
両肩を押さえつけられ、痣だらけの乳房が揺れた。
腹の上に馬乗りになっている男は、冷たい瞳で娼婦を見下ろしている。
「お前が穢れていると思ったことは一度もねェよ」
見れば、ゾロを誘うためだけに月下香の香水をつけた首筋に、うっすらと汗がにじみ出ている。
それは、緊張のためか、それとも恐怖のためか。
「三つめは愚問だ。答える気にすらならねェ」
怒っているのか、それとも怒りを通り越したのか。
ゾロは無表情のまま、三本の刀を外してベッドの脇に置いた。
そして、シャツを無造作に脱ぎ捨てる。