第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
港町から売春宿までの道すがら、クレイオは一言も喋ろうとはしなかった。
数歩後ろを歩くゾロを振り返ることもせず、ただひたすら急いでいるようだった。
「・・・・・・・・・・・・」
おかしい。
根拠のない違和感が、ゾロの思考を支配する。
道の両脇に生えている木が増え、地面は砂利が多くなってきた。
人気のない山道に差し掛かった途端、ゾロは無意識に腰の刀に手をやる。
違和感は警戒心となって、ゾロの神経を尖らせていた。
「クレイオ」
名前を呼んでも、クレイオは振り返らなかった。
わざわざゾロを港町まで探しにきたはずなのに、まるで後ろに彼がいなくてもいい・・・無言でそう訴えているかのような態度だ。
“私が買った娼婦さんの時間、どう使うかは剣士さんに任せるわ”
別れ際、ロビンはゾロに向かってそう言った。
ルフィやナミ達にはうまくごまかしておく、そう約束して。
自分は彼女に“借り”を作ったのだろうか・・・
ロビンの行動の意図が読めず、ゾロの眉間に深いシワが寄る。
すると、クレイオがふと足を止めた。
顔を上げると、そこは売春宿。
「・・・・・・・・・・・・」
ドアを開けるのを躊躇っているのか、ノブにかけた手が動かない。
「・・・どうした?」
クレイオはゾロの問いかけに答えず、深呼吸を一つしてからドアを開けた。