第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「ちょっと待て、ニコ・ロビン。お前、なんのつもりだ?」
「別に・・・この娼婦さんを買うためのお金を払おうとしているだけよ」
「ふざけるな。おれはお前に“借り”を作るつもりはねェ」
「私は貴方のために言っているのではないわ、剣士さん」
身長が高く、美人で聡明なニコ・ロビン。
自分とはあまりに違うその風貌に、こうして目の前に立っているだけでクレイオは自己嫌悪に陥りそうだった。
ゾロにしても、自分が思っていた“海賊”とはまるで違う。
そのロビンが、クレイオを見て微笑んだ。
「ふふふ・・・とても素敵なお嬢さんじゃない」
顔に傷を作り、フードを目深に被った娼婦。
港町を行き交う人は白い眼を向け、心無い言葉を浴びせる。
「私は・・・敵意に囲まれても生きることに必死な人の気持ちが、ほんの少し分かるだけよ」
人目を避けるように顔を隠し、日の当たらない場所を歩く。
時には人を騙し、欺き、裏切ってでも生きなければいけない理由があるとしたら、それはとても大きな信念と覚悟だ。
「・・・?」
ロビンの深い瞳は、ゾロにとっては“何を考えているのか分からない”と映り、クレイオにとっては“自分を見透かされている”と映った。
「この島の娼婦さんは、いくらあれば足りるのかしら?」
「・・・2万、だ」
ゾロがそういうと、ロビンは財布から2枚の紙幣を取り出した。
だが、それを剣士に渡しても素直に受け取らないと思ったのだろう。
クレイオの方に差し出し、黒髪を潮風になびかせながら微笑む。
「貴方の“時間”は私が買ったわ」
その時、クレイオは娼婦となって初めて───
身体を対価としない金を受け取った。