第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
たった二晩外泊しただけだが、港の隅に停泊しているゴーイング・メリー号を見ると、久しぶりという感覚を覚えた。
タクシーのおかげで、売春宿からここまでは20分たらず。
まったく、歩いたら半日かかってもつけないなんて、いったいどんな複雑な地形をしてんだ、この島は。
昨日は山奥に迷い込んでしまった、ゾロの眉間にシワが寄る。
折りたたまれている帆が目に入った瞬間、眠りにつくまで航海の話を聞きたがっていたクレイオを思い出した。
もしかしたら、彼女はこの島を出たいのかもしれない。
“クレイオはこの島の歴史上、もっとも多くの人間を殺した女───”
あの言葉は本当なのだろうか。
腹の底に何を抱えているのか知らないが、悪魔の実の能力者でもなさそうだし、人を殺せるような女にはとても見えない。
だが、その真相を知る由はなかった。
「あー、ゾロ!!!」
艦首から垂れる梯子を昇ろうとしたところで、上からチョッパーの声が降ってきた。
「チョッパー」
「心配したぞ、おれ!」
「悪ィ悪ィ」
甲板に降りるなり、飛び込んでくる毛むくじゃらの船医。
よほど心配していたのだろう、まん丸の目が潤んでいる。
ポンポンとピンク色の帽子のてっぺんを叩いていると、チョッパーの声に気が付いた他のクルー達も船室から出てきた。
「ゾロ!! 久しぶりだなー」
「よう、ルフィ。二日も船を空けて悪かった」
「なんだ、マリモ・・・別に戻ってこなくて良かったのに」
「うるせェ、グル眉」
「どこで寝泊まりしてたんだよ? お前のせいでおれがナミに怒られたんだぞ!」
「ああ、ちょっとな・・・悪かった、ウソップ」
相変わらず、この船は騒がしい。
だが、売春宿の喧噪とは違って、心休まる騒々しさだった。