第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「おい、おっさん・・・クレイオはいったい、どういう女なんだ?」
「お客さん、何も聞いていないんで?」
「ああ。名前以外はなにも、な」
すると、店主は煙草に火を付けながら首を横に振った。
「娼婦をやるような女の素性なんて、知らない方が身のためだ」
「・・・まあ、詮索するつもりはねェがな」
別に娼婦であろうとなかろうと、ゾロはあまり他人に興味を持たない性格だ。
だが、この場所でクレイオを初めて見てからというもの、不思議とどこか気になる存在だった。
客に媚びを売る風はなく、ただ淡々と“仕事”をこなしている。
あの全身の傷痕だって、最初は客からつけられたものだと思っていたが、そうではなさそうだ。
極めつけは、どれほどゾロに打ち解けたように見せていても、心までは許してはいないように見える。
だからどうというわけでもないのだが、どのような境遇なのかは気になるところだった。
「・・・まあ、一言でいえば・・・」
店主は煙をゆっくりと吐きながら、天井を見上げる。
「クレイオはこの島の歴史上、もっとも多くの人間を殺した女───」
それも、たった数十分のうちに。
「償いきれない罪を背負い、島の人間からの恨みを一身に浴びる、腐った女だ」
暴力を無抵抗で受けて当然。
まっとうな仕事に就けなくて当然。
罪を償うことができないのなら、せめて欲望の捌け口となれ。
それが、クレイオに与えられた運命だった。