第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
翌朝、ゾロが目を覚ますとベッドの上で寝ていたはずのクレイオの姿は無かった。
最初の日もそうだったが、“早起きなんだろう”とさして気にすることもなく、一晩中床に座っていたせいで固まってしまった身体を伸ばす。
「さすがに今日は船に戻らねェとまずいな」
いくら自由行動と言っても、無断で二晩も船に戻らなかったから、みんな心配しているだろう。
ナミにドヤされるだろうが、仕方ない。
備え付けのシャワーを浴び、さっぱりしたところで一階に降りていくと、店主が苦虫を噛み潰したような顔でゾロを出迎えた。
それも仕方がない。
店でいきなり喧嘩を始められそうになったのだから。
「・・・あァ、あれだ・・・昨日は悪かった」
「いや、気にしないでくださいよ。喧嘩なんて酒場じゃよくあることだ」
まさかゾロが謝るとは思っていなかったのか、店主は取り繕うような笑顔を浮かべながらドアの向こうを指さした。
「クレイオがお客さんのためにタクシーを呼んでますよ」
「タクシー?」
「相当な方向音痴らしいな、あんた」
見れば、窓から古ぼけたオート三輪のタクシーが待機しているのが見える。
「あの野郎・・・おれをなんだと思ってるんだ・・・」
お節介な女だ、とゾロは顔をしかめた。
一人で仲間の所に帰れないと決めつけられたようで、気に入らない。
だが、昨晩、“差し出されたものは黙って受け取れ”と啖呵を切ったくせに、自分は厚意を断るなんて筋が通らないだろう。
仕方ない、ここはクレイオが用意したタクシーを使うことにしよう。
しかし、ゾロは帰る前に一つ、聞いておきたいことがあった。