第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
クレイオも一緒にパンに齧りつくと、いつもより数段と美味しいことに驚いた。
パンそのものは変わらないのに、こうして誰かと一緒に食事をしているということが美味しく感じさせるのだろうか。
持ってきたワインをグラスに注いでゾロに渡し、それを飲み干してくれることにもまた、心が弾んだ。
しかめっ面は相変わらずだけど、“うまい”と言ってくれることがこんなにも嬉しいことだなんて・・・
「あー・・・腹一杯だ、うまかった」
「じゃあ・・・そろそろ始める?」
「何を?」
「何をって・・・」
私は、娼婦。
ここは、売春宿。
貴方は、娼婦を買ってここにいる。
「昨日と違って、私はちゃんと貴方の相手をできる。心配しないで」
そう言って服を脱ごうとしたクレイオを、ゾロは眉間にシワを寄せながら首を傾げた。
「お前、何を勘違いしてんだ?」
「・・・え?」
「昨日も言ったが、おれは女を抱きたくてお前を買ったわけじゃねェ」
「じゃあ・・・なんで・・・?」
あっけに取られているクレイオを尻目に、空いたグラスになみなみとワインを注ぐゾロ。
それをグイッと飲み干すと、まるで鋭い剣先のような瞳を向けてきた。
「そうすりゃ・・・おれも、お前も、“寝る場所”を確保できるだろうが」
ゾロは屋根の下、クレイオは男の腕の外。
安心して寝られる場所を得ることができる。
だけど、クレイオはそんなゾロの行動を、信じられずにいた。
「・・・何黙ってんだ、なんか文句あんのか?」
「で・・・でも、そんなことのために、わざわざお金を払ったの?」
「どうせ、昨日チンピラから巻き上げた金だ。持っていても仕様がねェ」
吐き捨てるように言ったゾロに、クレイオは言葉を失った。