第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「いいか、島中の人間がお前を恨んでいる。そんなお前をここで雇ってやっているんだ、店には絶対に面倒事を持ってくるんじゃねェぞ」
「・・・・・・分かってるわ」
クレイオは唇を噛むと、店主から逃げるようにして厨房に入った。
冷蔵庫から塩漬け肉とパン、ワインのボトルを数本抱える。
そして再びカウンターに戻ると、店主に背を向けたまま呟いた。
「私が人間以下なのは分かっている・・・ここで働かせてもらえていることにも感謝してるわ・・・」
「だったら、店に迷惑をかけるんじゃねェぞ」
「・・・ええ・・・もちろん」
こんな薄汚れた売春宿で、男達の欲望に付き合うだけの日々。
でも、ゾロと一緒にいる時間だけが、そのことを忘れさせてくれる。
たとえ彼が、マフィアや娼婦と同じ、“犯罪者”だとしても───
「ゾロ、持ってきたわ」
「・・・お、飯か」
クレイオが下に行っていた、わずか十数分のうちにゾロは居眠りしていたようだ。
窓際に寄せた椅子の上で鼻ちょうちんを作っていたが、クレイオが入ってくると同時に目を覚ます。
「悪いな」
「・・・いいえ」
塩漬け肉とパン・・・
航海中の船の上の食事とさほど変わらないものしか用意してあげられないことを、クレイオは申し訳なく思った。
しかし、ゾロはお構いなしに頬張っている。
「ごめんなさい。ちゃんとした食事を用意してあげられなくて・・・」
「ん、十分うめェよ? 腹に溜まりゃ、何でも同じだ」
「でも、海の上ではこういう食事ばかりなんでしょう?」
「・・・うちにはムカつくコックがいて、そいつがやたらと手の込んだ料理を作るから、むしろこういう食いモンの方が少ねェ」
「そういうものなの・・・?」
この人と一緒に海賊をやっているコックさん・・・
同じように怖い顔をしているんだろうか。
もう少しで喉から出そうになった、“会ってみたい”という言葉をなんとか抑える。