第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「おい、それより腹が減った。なんか飯は無いのか?」
「え?」
唐突なゾロの言葉に、クレイオは思わず吹き出してしまった。
とても売春宿に二連泊しようとしている男の発言とは思えない。
そんなクレイオに、ゾロの方も珍しいものを見たような気分になった。
“笑顔”などゴーイング・メリー号の上では絶えずあるものだが、初めてクレイオのそれを見たような気がする。
「ちょっと待ってて、下から塩漬け肉とパンを持ってきてあげる」
「ああ、あと酒もな」
「分かった」
その時、クレイオも久しぶりに“空腹”を覚えていた。
この仕事を初めてから滅多に感じることのなくなっていた食欲。
客の相手をしている最中に戻してしまわないよう、仕事前は食事を取らずにいるうちに、随分と食が細くなってしまっていた。
でも、不思議とゾロと一緒にいるとお腹がすく。
きっと彼にそれを言っても、変な顔をしながら首を傾げるだけだろうが・・・
一階に降りると、店の店主はクレイオの顔を見るや否や、肩を掴みかかる勢いでゾロのことを訊ねてきた。
「お前、あの客に何かされていねェか?」
「ゾ・・・ゾロのこと?」
「あのイカれた客、“奴ら”に喧嘩を売ったんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
見れば、カウンターテーブルに銃弾が撃ち込まれている。
先ほどの銃声はこれか・・・
「あの人は大丈夫・・・悪い人じゃない」
「そいつが“お前にとって”悪い人間か、そうじゃねェかは関係ねェんだ、バカ野郎!」
「・・・・・・・・・」
マフィアを怒らせたら、何をしでかすか分からない。
この島を治める権力者すらも頭の上がらない連中だ。
「この島がこうなったのも、元はといえば“お前”のせいだろうが!」
「・・・・・・・・・・・・」
店長が心配しているのは、クレイオのことではない。
自分の店が潰されやしないか、ということだった。