第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「ゾロ!」
「うるせェな、おれに指図する気か?」
「私は貴方が心配なの! 本当に残酷な人達なのよ!」
「へェ・・・そりゃ、“海賊”よりもか?」
「え・・・?」
海・・・賊・・・?
「ゾロ・・・まさか、貴方・・・」
潮の香り。
太陽の香り。
異国の香り。
“海”の象徴を全て感じさせていながら、漂わせる雰囲気はまさに血に飢えた野獣。
何故、刀を三本も差しているのかは知らないが、過剰に武器を持ち歩くのは、昔見た海賊そのものだ。
「ああ、海賊だ」
でも、不思議と海賊だと名乗った彼を“怖い”と感じることは無かった。
むしろ、心のどこかでホッとしている。
娼婦と海賊。
世間からは“はみ出し者”として忌み嫌われる、犯罪者だ。
ただ違うのは、海賊は自由であるということ。
「そう・・・なの・・・」
「これで、安心したか?」
安心・・・とまではいかなくとも、ゾロが凡人ではないということが分かり、少しだけ気持ちが落ちつく。
同時に、うらやましいと思った。
今、自分が見ることのできる海は、この売春宿の二階から見える水平線だけ。
「ねぇ・・・航海ってどんな感じ?」
「どんなって・・・ただ船に乗って、島を辿っていくだけだ」
「どこか目指している所はあるの?」
「さあな」
ゾロは頭の後ろで手を組み、微笑みながら目を閉じた。
「だが、うちの船長が狙っているワンピースを見つけるまでは、付き合わされるだろうな」
“ひとつなぎの大秘宝”ワンピース。
それを見つけるということは、この世の全てを手に入れるということ。
「すごい・・・私には想像もつかない話だわ・・・」
この人の仲間はいったいどんな人達なんだろう。
会ってみたい気もするけれど、それはこの人が“娼婦を買っている”ということを仲間達にわざわざ報せにいくようなもの。
自分の立場は分かっている、だから“会ってみたい”とは言えなかった。