第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
客かと思い、顔を上げたクレイオの目に飛び込んできたのは、今まさに名前を口にしたばかりの男。
「ゾロ・・・?」
「よう」
「どうしたの? これからお客さんが来るんだけど・・・」
「来ねェよ。今日は都合が悪いそうだ」
三本の刀を揺らしながら部屋に入ってくるなり、隅に置いていあった木椅子にドカリと座った。
そして、窓の外に目を向け、“お、海が見えるな”とのんきに呟いている。
「都合が悪いって・・・そういえば、さっき下で銃声のような音がしていたけれど、何かあったんじゃ」
「ああ、お前を昨日買っていた男に銃をブッ放された」
「え!」
まさか、何かトラブルを起こしたんじゃ・・・!
この島のマフィアを相手にしたら、人間一人なんて簡単に消されてしまう。
すると、ゾロは眉間にシワを寄せながらクレイオを睨んだ。
「なんだ、その顔は」
心配されることが気に入らないのか、口をへの字に曲げている。
相当な負けず嫌いなのか、プライドが高いのか。
それでもクレイオはゾロのことが心配だった。
炭鉱のトンネルでもゾロはマフィアに喧嘩を売るようなマネをした。
そして、クレイオの馴染みの客にも・・・
「ゾロ、もし貴方がこの島の人間でないのなら、今すぐ出ていった方がいい」
「それはさっき、店のオヤジにも言われた」
「もし仲間もいるなら、彼らも危険だわ! “彼ら”を怒らせたら、ゾロだけでなく、その家族や仲間達もひどい目に遭うことになる」
「だからなんだってんだ」
しかし、当の本人は大あくびをして、クレイオの言葉に耳を貸す気配もない。