第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
街はずれにある売春宿の二階。
窓の向こうに目を凝らせば、うっすらと海の水平線が見える。
昔・・・炭鉱物を積んだ船の出航を見送るため、港町へ出るのが好きだった。
時々見かける海賊は怖かったけれど、港町は異国の香りがする。
海の向こうには、いったいどのような国があるのだろうと、そう思うだけで心が弾んだ。
「・・・・・・・・・・・・」
しかし、5年前を境に、この島の貿易の中心は石炭ではなくなった。
山の中にあるこの炭鉱の町もかつては栄えていたが、閉山にともなって寂れてしまった。
「私にできることは・・・ただ、“怒り”を受け入れることだけ・・・」
体中に出来た傷も、娼婦としての稼業も、自分には当然の報いだ。
クレイオはベッドに座り、両腕で自分を抱きかかえるようにして蹲った。
全身が痛い。
このまま死んでしまえたら、どんなにラクだろうと思うことさえある。
だけど、それだけはできない。
「私が死んだら・・・誰が・・・守るの・・・」
こうやって耐えていれば、少なくとも生きていくことはできる。
こんな人間以下の自分を背負ってくれた、ゾロの背中・・・
その首筋から、潮の香りがした。
太陽の香りがした。
異国の香りがした。
「ゾロ・・・」
クレイオがその名を呟いた瞬間、部屋のドアが無造作に開けられた。