第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
クレイオとは同じ部屋で一晩を過ごしただけ。
それだけの縁でしかないはずだ。
「随分とクレイオをお気に入りのようで」
「今日もたっぷりと可愛がってやらないとな」
しかし、店主と客のやり取りを聞いているうちに、ゾロは腹の奥にザワつきを覚え始めていた。
飲んでいる酒も不味く感じる。
何より、この男の精液の感触が右手に蘇り、今すぐにでも顔を殴ってやりたい衝動に駆られた。
「おい・・・お前」
本当だったら、関わらないでおくべきだったのかもしれない。
騒ぎを起こすことに関してはなんとも思っていないが、おそらくクレイオに迷惑がかかるだろう。
しかし、ゾロは後先を考え、打算的に動く性分では無かった。
店主が焦ったように何かを言ったが、おかまいなしにビールを全て飲み干すと、空になったジョッキをカウンターに置く。
「さっさと済ませろよ、後がつかえてるんだ」
「なんだ、お前」
ゾロは顔を動かさず、目だけを男に向けた。
「あの女を買ってるのは、お前だけじゃねェっつーことだ」
「・・・あ?」
「あと、もう少し考えろ。腹ん中に薄汚ェモン詰められた女を抱く方の身のこともな・・・」
見ず知らずの男の挑発に、客のこめかみに太い血管が浮き出た。