第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
二日連続で店に現れたゾロに、売春宿の店主は最初、驚いた顔をした。
しかし、クレイオと一緒だという事に気が付くと、“なるほど”と意味深な笑みを浮かべ、昨日座っていた席と同じ場所にゾロを通す。
「いらっしゃい」
クレイオは店主と目も合わせず、そのまま二階へ上がっていってしまった。
明らかに昨日よりも怪我が増えているというのに、店主は特にその事を気にする素振りはない。
本当に、“いつものこと”なのだろう。
「お兄さん、クレイオのことが相当気に入ったようですね?」
「そんなんじゃねェ、ただの成り行きだ」
ゾロはカウンター席に座ると、店を見渡した。
まだ日が高いせいか、昨晩はあれほどいた娼婦達がいない。
「クレイオは・・・こんな時間から客を取っているのか?」
「クレイオは特別なんですよ」
「特別?」
店主はそれ以上を語らず、ゾロにビールのジョッキを手渡した。
おそらく、それを語ることは、店にとって都合が悪いのだろう。
ゾロもそれ以上は追及せず、代わりに先ほどからどうしても言っておきたかった文句を店主に浴びせた。
「それより、オッサン・・・店の前の道を真っ直ぐ行きゃ港町に着くと嘘ついたな」
「嘘じゃないですよ。前の“1本道”を真っ直ぐ行きゃ、港町に着くはずだ」
「フザけんな。お前の言う通りにしたら、炭鉱みてェな場所に出たぞ」
それはひとえにゾロが極度の方向音痴であるせいなのだが、店主はそれよりも“炭鉱”という言葉にビクリと肩を震わせ、磨いていたグラスを床に落とした。
パリンッ
粉々に砕け散るガラス。
それを拾おうともしない店長は、明らかに動揺しているようだった。