第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
娼婦にだって、帰る家はあるはず。
怪我をしているんだ、病院にも行った方がいいだろう。
しかし、クレイオは売春宿に戻ることを望んだ。
「お前、その身体で・・・大丈夫か?」
「大丈夫・・・いつものことだから。シャワーを浴びなければいいだけのことよ」
昨晩はそれで倒れてしまったが、ゾロの笑いを誘うためにそう言ったのか。
ここで笑ってやることも、ツッコミを入れてやることもできない不器用な男は、ただ黙ってクレイオを背負い歩いていた。
「これでも売れっ子だから・・・待っている常連がいるの」
「・・・・・・・・・・・・」
これだけの傷を負ってもなお、男達の相手をしようというのか。
そもそも、あの場所で暴力を振るわれていたのにも何か事情があるはず。
だが、ゾロはそれに踏み入ることはできなかった。
否。
踏み入れることは許さないとばかりに、クレイオの方が努めて明るい声を出していた。
一日中、あれだけ彷徨っていた山道だが、クレイオの案内に従って歩けば、ものの30分で町に出ることができた。
道の向こうには、昨日泊まった売春宿も見える。
「ここでいいわ。ありがとう、ゾロ」
「・・・これから客を取るのか?」
「ええ、昨日と同じ人が待っているの。彼は私に熱を上げているから」
昨日と同じ・・・あの大男か。
おぼろげながらも顔を思い出した瞬間、指に精液の感触を思い出し、鳥肌が立った。
他人の精液を触るとは、我ながらよくできたものだ。
ゾロはクレイオを下ろすと、片眉を吊り上げながら彼女を見据えた。
「おい・・・夜は客を入れんなよ」
「え?」
この時、何故自分がこのような気持ちになったのかは分からない。
柄ではないが、憐れな娼婦に対する“同情”だったのかもしれない。
「今夜もおれがお前を買う」
それでも、その言葉を聞いた娼婦の瞳に初めて生気が宿ったのを、ゾロは見逃さなかった。