第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「おい、立てるか」
「・・・その声は・・・ゾロ・・・?」
クレイオの腕を引っ張った途端、ヌルリとした感触を手のひらに感じる。
手足は血まみれで、随分と酷く殴られていたようだ。
腹も蹴られていたのか、両脚が震えている。
「・・・仕方ねェな。背中に乗れ」
これがサンジなら優しくお姫様抱っこでもしたのだろうが、生憎ゾロは女性に対してそのような行動を取る男ではない。
「私は大丈夫・・・うわ!」
クレイオに遠慮する暇も与えず、その腕を引っ張り上げ背中に背負った。
「面倒臭ェ女だ。黙っておぶさってろ」
「そ・・・それにしても、なんで貴方がここに・・・?」
「それはおれが聞きてェ」
ゾロにしたって、港町へ行きたいのにこんな鉱山に来てしまったのだ。
クレイオを助けたのもたまたま。
娼婦を背負いながらトンネルの外に出ると、強い太陽の光が目に染みた。
「ゾロの髪・・・すごい緑色」
「あ? 何を今さら」
「昨日は薄暗い部屋の中だったし・・・」
“お客”の容姿はあまり見ないようにしているから───
「すごい・・・光に透けて綺麗・・・」
「変な女だな」
サンジにはとことんバカにされるが、緑色の髪なんて珍しいものではない。
それに、こんなに短い髪を“綺麗”というのもおかしいだろう。
「それより、お前をどこに連れていけばいいのか教えろ」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオは少し黙り、そして唇を噛みしめながら答える。
「売春宿へ・・・」
それは、鈍感なゾロですらも気づくほど、悔しさに満ちた声だった。