第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「私を産み落とした母は、最初から育てる気が無かった。父も私を愛そうとしてくれたけれど、どうしても愛することができず嵐の海に捨てた」
「・・・・・・・・・・・・」
「そこで死なせてくれれば良かったのに、神様は意地悪をするものね。私は岸まで打ち戻されて、漁師夫婦に発見された」
「そいつらがクレイオを育てたのか?」
「そう・・・こんな醜い顔の子どもに同情し、あの岬の家まで残してくれた」
「ふーん・・・よく分かんねェけど・・・」
ルフィは両足をブラブラとさせながら、しばらく海の方を見ていた。
そしてクルリとクレイオの方を向き、ニコリと微笑む。
「お前、愛されてんだな!」
それは思ってもみない言葉だった。
自分が・・・愛されている?
「海は決して優しくはねェぞ。人の命を簡単に奪う。何もなけりゃ、ガキを生かすことなんて絶対にねェ」
“悪魔の実”を食べたせいで海に嫌われてもなお、海賊としてそこを生きる場としているルフィにはよく分かった。
「それに、お前の家の庭にはたくさんの食い物が生ってた。魚だってよ、届けてくれる奴がいるんだろ?」
たとえ同情だとしても、それがどうしていけない?
この島にはクレイオを助けてくれる人間がいる。
自然だって、クレイオが食べる分だけの食料をはぐくんでくれる。
「なんか・・・島中が、お前に“生きろ”って言っているようだ」
その声がルフィには届いているのだろうか。
ふたこぶ山の頂上から海と島を見下ろし、優しく微笑んでいる。
彼は口先だけで誰かを慰められるほど器用な男ではない。
だからこそ、その言葉はクレイオの心に深く響いた。
「そうやってみんながお前を生かしてくれていたから、今日おれは助かったんだな」
クレイオがいなければ、今頃は海軍に捕まっていたかもしれない。
ルフィはクレイオの顔を真っ直ぐと見つめ、“ありがとう”と言った。