第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「空を・・・空を、飛んでいる・・・!」
おそらく時間にしたら数十秒も無かったかもしれない。
クレイオの眼下に広がるのは家々の窓から零れる明かり。
頭上には夜空に散りばめられたたくさんの星。
上からも下からもキラキラとした光に包まれ、夢を見ているような錯覚に陥る。
いや・・・これは夢なのかもしれない。
「ルフィ・・・!」
「おう!」
自分を抱いて空を飛ぶ人間なんて、いるはずもないんだ。
これは、真夏の夜に現れた妖精が見せる夢。
そう思った瞬間、クレイオの身体はスーッと軽くなった。
段々とスピードが落ちてきたところで、ルフィがもう一度右腕を伸ばした。
そして、一本の松の木を掴む。
「ちょっと振動がくるかもしれねェぞ」
その言葉の通り、二人が木の枝に降り立った瞬間、ズシリと忘れていた重力がクレイオの身体に戻ってきた。
しかし、不思議と関節は悲鳴を上げず、それほど衝撃も感じない。
「ほら、一発でてっぺんに着いた!」
どんなもんだ、と得意げになっているルフィを見て、思わず笑ってしまった。
こんなにすごい運動神経と能力を持っているというのに、彼はまったく飾らない。
これほどの力ならば、人を恐怖に陥れることなど簡単にできるだろう。
実際、海軍は彼を脅威に思うからこそ、3億ベリーもの懸賞金を懸けているのかもしれない。
だけど、クレイオの前にいるルフィはいたって無邪気で、優しい少年だった。
「随分と低い山だなー。リバースマウンテンの方がずっと高かったな」
手をおでこにかざしてキョロキョロと周りを眺めているルフィ。
特に面白そうなものはないと分かると、下唇を突き出しながらクレイオを見た。
「おい、クレイオ! お前、なんでこんな所に来たかったんだ?」
「それは・・・」
もし、許されるなら・・・
誰かと一緒に見てみたかった。