第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「一つだけ言っておくけれど」
大通りを歩きながら、クレイオは隣を歩くサンジを見上げた。
港町は、今朝来たという“麦わら海賊団”がさっそく大暴れしたらしく、多くのレストランが休日でもないのに閉まっていた。
海賊自体は珍しいものではないが、この島に駐在している海軍を半壊させた一味は聞いたことがない。
とばっちりは受けたくないとばかりに、どこも臨時休業となっていた。
「開いている店があったとしても、私をすんなり入れてくれるとは思えないわよ」
「どういうことだい?」
「まあ・・・行けば分かるわ」
先ほどから自分たちに向ける街の人の目は冷ややかだ。
それに気づかぬはサンジばかり。
そして、一軒のレストランの前で足を止める。
「この店が良さそうだな。看板がきちんと磨かれているし、メニューも豊富だ。クレイオちゃん、どうかな?」
クレイオは店の看板を見上げ、興味なさそうに肩をすくめた。
レストランで食事などしたことがないから、どうだと聞かれても分からない。
「貴方に任せる」
「そう? じゃあ、ここで」
サンジが目尻を下げながらドアを開けると、清潔感のあるスーツを纏ったウェイターがすぐに二人を出迎えた。
「いらっしゃいませ。二名様でいらっしゃいますか?」
「ああ。デートなんだ、一番いい席にしてもらいたい」
「それはそれは。では、こち・・・」
にこやかに二人を案内しかけたウェイターだったが、サンジの後ろに立っているのがクレイオだということに気が付き、眉をひそめる。
「あの、お客様・・・失礼ですが、そちらの方がお連れ様で?」
「そうだ。この素敵なレディーに見合う席を用意してくれ」
「申し訳ありませんが、そちらのお客様をご案内するわけには・・・」
ウェイターの反応は、クレイオが予想していた通りのものだった。