第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「案内できねェだと? おい、いったいどういう了見だ」
クレイオの入店を拒否するとはどういうことだ。
それまでずっと猫なで声を出していたサンジが、一瞬にしてドスの利いた声に変わる。
「それは、その・・・」
娼婦が出入りしているなんて知られたら、店の評判が落ちかねない。
ここのような高級レストランなら特に。
「入店拒否か、この野郎。どんな接客マナーだ、言ってみろ」
「やめて、サンジ」
クレイオはウェイターの胸倉をつかもうとしたサンジの手を止め、ざわつき始めた店内に目を走らせた。
「この人が悪いわけじゃない。この島のどのレストランに行っても、私は入店を嫌がられる」
「なんで・・・!」
「なんでって、私が娼婦だからに決まっているからでしょ。男に身体を売るような女に堂々と食事をされては、店の信用と品位が落ちる」
“私をすんなり入れてくれるレストランがあるとは思えないわよ”
だからさっきそう言っていたのか、とサンジは眉間にシワを寄せた。
この島にたった一人だからこそ、クレイオの稼業を知らない者はいない。
「それに・・・私を店に入れたくない理由が他にもあるのよね?」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオの言葉に、ウェイターがギクリと表情を強張らせた。
「私・・・たった一度だけでも、相手した“お客さん”のことは決して忘れないの」
“あの時は楽しかったわね”と微笑んで見せる。
すると、ウェイターは顔面蒼白となり、どうにかしてサンジとクレイオを店から追い出そうとした。
「頼むから出て行ってくれ。私には妻も子もある。あれは気の迷いだった」
「ええ、貴方の“気が迷って”いたから相手をしたの」
でも大丈夫。
私と貴方の関係は、お金が支払われた瞬間に終わった。
「お邪魔してごめんなさい。出ていくから心配しないで」
そう言って、サンジの手を引っ張ろうとした時だった。