第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「私を・・・誘っているの?」
サンジの思いがけない行動に、クレイオは驚いたようにバラを見つめていた。
客と情事のついでに食事をしたことはあっても、こうして誘われるのは初めてだ。
「私と食事をしても何にもならないのに」
「それはおれが決めるさ。何より、デートにかけては自信がある」
「・・・でも・・・」
「もちろん、イヤなら断ってくれ。だけど、花束だけは受け取ってほしい」
男が一度女に差し出したモノは、何があっても引っ込めることはできない。
サンジの信念の一つだ。
「綺麗なバラだろ? 同じくらい綺麗な女の子から買ったんだ」
そう言って笑ってみせると、ようやくクレイオの顔にも笑顔が浮かんだ。
「娼婦を誘うなんて、変な人ね」
「そうかな?」
「それに、他の女を褒めながら女にプレゼントを渡すなんて、本当に変な人」
しかし、差し出されたバラの花束を受け取り、その香りを胸一杯に吸い込む。
豊かで、幸福感を与える芳香には、この花を育てた人の思い、それを買った人の思い、それをプレゼントする人の思いを感じられた。
「・・・ええ、いいわ」
娼婦は男を悦ばすことが仕事。
その娼婦を喜ばそうとする男なんて珍しい。
酔狂だとしても、付き合ってみるのも悪くない。
「貴方とのお食事、楽しそう」
クレイオが頷くと、サンジはスーツの襟を正し、ネクタイを締め直した。
そして、恋に生きる男はここからが本領発揮とばかりにレディーの手を取る。
───これ以上、男達の汚い欲望に、君をさらさせはしない。
「じゃあ、行こうか」
淑女をエスコートする紳士。
クレイオが娼婦、サンジが海賊ということを知らない人間には、きっとそう見えていたことだろう。