第2章 サクラ散る頃
夢主(姉)からの着信は珍しい。電話はいつも俺からだった。
俺は急いで電話に出た。
「一君、ごめんね…いきなり…」
元気のない…弱々しい声…
どうしたのだと問えば、
「ううん。ただちょっと…一君の声が聞きたかったの」
泣き出しそうな声だった。
俺の胸は苦しくなる。
「会いたいって言ったら怒る?」
怒るわけがないだろう。俺はいつだって、あんたのことを怒るつもりはない。
電話を切ると、今まで歩いてきた道のりを引き返し、学校からそう遠くない駅まで急いだ。
夢主(姉)は駅の近くの公園にいるらしい。
制服ではなく、ショートパンツにパーカー姿の夢主(姉)の姿を見つける。
着飾っているわけではないのに、その姿が眩しい。
俺は目を細めた。
夢主(姉)はすぐに俺に気がついて、小さく微笑んでこちらへ歩いてくる。
「いきなりごめんね?」
そう言いながら、俺の背中に腕をまわすと、コツンと胸のあたりに額をつけてきた。
ふわり、と、夢主(姉)の甘い香りがして、自分の心臓が早くなって行くのがわかった。
俺も夢主(姉)の背中に腕をまわし、少し力を入れて抱きしめる。
すると、
「ねえ一君………私のこと好き?」
と甘えた声で俺に尋ねてくるから、
好きに決まってるだろう…と答えれば、ふふふと嬉しそうに笑って、俺の胸に頬をすりつけた。
あんたの全てが俺には眩しい。
あんたが話す言葉ひとつひとつさえ…全部が眩しくて…手に届かないような気がして…
果たして俺はあんたの隣で釣合いが取れているのか・・・
おかしなくらい必死だ。
年齢の差は縮まらない。
そんなのは承知の上だ。
だが、あんたはどんどんきれいになって、いつまでたっても俺は追いつけない。
・・・苦しい
俺は夢主(姉)の背にまわした腕にいつも以上に力を込めた。
夢主(姉)の体は細くて小さくて…折れてしまいそうだ。
いっそ…折れてしまえばいい。
少し驚いた様子で、俺を見る。
間もなく互いの唇がふれた。
つま先立ちをして、俺の高さに合わせている夢主(姉)を元に戻し、俺が夢主(姉)の高さまで降りていく。
・・・苦しい
唇を離して夢主(姉)を見れば、何故だか夢主(姉)も苦しそうな顔をしていた。