第2章 サクラ散る頃
「斎藤先輩、送ってくださってありがとうございました。」
剣道部を見学に来ていた雪村を自宅まで送った。
途中まで平助もいたのだが、見たいテレビに間に合わないとか言って、走って先に帰ってしまった。
雪村と二人であったのなら我慢もしたのだろうが、俺も一緒だということで遠慮もなかったのだろう。
しかし…
雪村と二人きりというのも、少し戸惑う。
走り去る平助の背中を二人で見送り、雪村の歩幅に合わせて歩いた。
今日はよく会う日だな…
そう呟けば、
「ほんとに。今までお話したこともなかったのに。なんだか不思議ですね。」
優しく穏やかな声色で雪村はそう言った。
妙に心地いい。
今まで関わりなどなかったはずなのに。
雪村と歩く帰り道は、心がとても落ち着いた。
そういえば具合は大丈夫なのかと、ふと思い出して尋ねると、もう大丈夫です、と笑顔で答える。
雪村が倒れた時の、南雲の様子を伝えれば、俺も悪戯な笑いがこみあげる。
ククク、と笑いながら話すと、
「薫らしいです…」
と、恥ずかしそうに雪村も笑った。
静かで穏やかな時間が流れる。
内容は大したものではなかったが、あまり会話が得意ではない俺でも雪村との会話は楽しいと思えた。
雪村を送り終え、自宅まで一人の帰り道・・・制服のポケットから着信を知らせる音が鳴った。
――夢主(姉)だ。