第1章 オムライス
キッチンから自分の部屋へ戻る
アヤセの足取りが軽い。
オムライスは完成していないものの、
シドの喜ぶ顔を想像すると笑みがこぼれる。
部屋に近づくと
そこには想像していた人の姿があった。
「よぉ。」
「シド!」
さらに顔が笑顔になる。
シドは部屋の扉にもたれて
アヤセを待っていた。
部屋に二人で入った。
「どうしたの?」
「別に。
お前の顔が見たかっただけ。」
シドは
アヤセの手を取ると
ベッドまで引っ張って行く。
そのまま
アヤセの体を抱えながら
ベッドに仰向けに倒れ込む。
「シド…?」
「お前、あさって休みだろ?」
「あ…うん…どうして知ってるの?」
シドを見下ろしながら答える。
「ジルから聞いた。」
「そっか。」
「空けとけよ。どっか行くぞ。」
いわゆるデートのお誘い。
しかし…
「あ…その…別の用事があって…」
「あ?俺より大事な用事なのかよ。」
「そ、そういう訳じゃないけど…」
(シドのための用事だけど…
言えないし…
どうしよう…)
アヤセの困った顔を見て
シドは小さくため息をつくと、
アヤセを横に移動させ、
ベッドから立ち上がった。
「じゃあまた別の日に。」
そう言って部屋を後にしようとする。
「えっ…!ま、待って!」
シドを追いかけて服を掴む。
「ごめん、あの、
たぶん半日なら都合つけられると思うから…」
「いいよ。お前にも
いろいろ付き合いあるだろうし。
じゃあな。」
そう言ってシドは
アヤセの部屋を後にした。
(うまくいかねぇ…)
そんなことを思いながら。
一方
アヤセは部屋に取り残され、
先程のうれしい気持ちはどこへやら、
不安な感情が押し寄せる。