第14章 アップルパイよりも甘く ♥︎ 〜孤爪研磨〜
結局ほとんど進展しないまま、合宿の日を迎えてしまった。
辛うじてリンゴジャム的なものは作れるようになったけれど、それだけじゃ…ねぇ。
『…はぁ』
自分の情けなさに項垂れながら、学校までの道のりを歩く。
「朝からため息つくと、不幸になるよ」
声のした方を振り返ると、その体には少し大きすぎる気がするエナメルバックを掛けた研磨くんがいた。
『黒尾先輩…は?』
「……クロは、主将同士の打ち合わせするって」
『そう…なんだ』
少し気まずいまま、また歩く。
研磨くんがあたしの歩幅に合わせて、少しゆっくり歩いてくれる。
『……きょぅも、寒いね』
「本当。こんな日に合宿とか…馬鹿みたい…」
『ふふ…そうかもね』
研磨くんと話してると、丁度いい気の抜け方になって、気持ちがいい。
自然に言葉が出てくる。
時間が経つのが本当に早い。
ほら…もう、学校が見えてきた。
『でも…練習、きっと気持ちよくできるよ、空気が澄んでるから…』
柄にもなくそんなことを呟いてみせると、隣で小さく笑い声がした。
「…ふ、結木が元気そうで何より」
そう言うと研磨くんは、また後で、と言い残して体育館の方へと歩いて行った。