第3章 消せない昔、消えない今（前）

今以上なんか望めない事が
こんなに悔しくて悲しいなんて

『本当にもう…大丈夫！
彼女…に悪い…から』

離れる事がこんなに苦しいなんて
今更知りたくなかったよ

クロから距離を取ろうと
必死に動かした身体が

「大丈夫なら平気なら
そんな顔すんな
そんな顔されたら放っとけない

…姫凪ちゃん！」

引き寄せられ
広い胸に抱き留められた

『クロ！？
駄目…離して…』

なんでこんな事するの？
彼女居るんでしょ？

続けたい言葉達が
クロの体温で融けて
喉の奥に戻って行く

「押し返せば良いだろ？
俺の気持ちごと拒否したら良い…
出来ないだろうけど
何言われても
何回拒否られても
俺は…姫凪ちゃんが好きだ」

彼女が居るって思っても
その人に悪いって思っても
側に居たくて堪らない

『…クロ…クロ…！』

思いっきり抱き着いて
存在を確かめる様に名前を呼ぶ

「姫凪ちゃん？」

『…あの…
もう相談とか大丈夫って言ったの
私だけど…
また、遊んでくれる？
側に居て、良い？』

戸惑うクロに
なるべくいつもの笑顔を作って
話し掛ける

お願い。
側に居させて。