第4章 真選組のしごと(後編)
ジリリリリリ...
原始的な音が枕元で時刻を知らせる。
(ぅん~時間?)
名前は怠い身体を起こして目覚ましを止める。
自然と重たいが口から洩れた。
『昨日の疲れかな。それともあんまり寝られなかったせいかな…』
箪笥を開けると目についた着物を取り着替える。
昨晩は気付かなかったが、部屋の隅に小さな化粧台が置かれていた。
鏡の前に座り引き出しを開けると櫛や髪留め、簡単な化粧道具が綺麗に並べられていた。
(昨日の仕立て屋さん達が用意してくれたのかな?)
髪を梳かし終わると、幾つかある髪留めの中から大きな桜の飾りが付いたゴムを手に取り、後ろの高い位置で一つに結んだ。
(今日は稽古って言ってたし、これでいっか)
化粧箱の蓋に手をかけて少し考えた後、そっと引き出しの奥の方にしまった。
『おはようございまぁす』
稽古場の扉を開けると人の気配はなかった。
『だよねー。まだ5時前だもんねー』
壁に掛けられた竹刀を一本拝借してブンッと軽く一振りする。
『よしっ!』
両手に持ち替えて素振りを始めた。
1時間。
名前は無心で降り続けた。
だから気付かなかったのだ。
扉の前でずっと見られていたことに…。
ハァハァハァハァ…
(流石に、しんどいなっ…ハァハァ)
「大した奴だな、お前…」
『―ッ!?』
振り返ると出入り口の柱に寄りかかっている土方の姿があった。
昨晩の出来事が脳裏をよぎって声が裏返る。
『ひ、土方さん!?え?あれ?いつから?!ってか私全然気づかなくて!!すみません…』
土「名前でも気付かない事があるんだな」
からかう様に笑ってタオルを名前に向けて投る。
いつもと変わらない彼の態度に安心して、でもなんとなくそれに気付かれたくなくてタオルでそっと顔を隠した。
土「1時間振り続けても姿勢一つ崩れない。いったいお前ェのスタミナと精神力はどうなってやがんだ」
『昔、お客で剣の講師してる人がいて教えてもらったの。10歳くらいの頃から、素振りするのを日課にしてたんだ』
土(10歳くらいって、そんな小さな頃から?)
話を続けようとした名前は、突然身なりを整え始めた。