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ストロベリーフィールド

第3章 真選組のしごと(前編)


翌朝―。
時計は七時になるところだった。

『寝坊したかな?』

与えられた六畳間で目を覚ました名前は、枕元に置かれた小豆色の着物に袖を通して部屋を出た。

鳥のさえずり。
水たまりがはじける音。
道場での男たちの掛け声。
竹刀が風を切る音。

あの家に居た頃にはなかった音に、高揚し不安にも思う。

(お腹すいた…)

気合を入れて、頭に叩き込んだ見取り図を頼りに歩き出した。


ガラッ

『おはようございます!!!』

第一印象は挨拶から!と腰を90度に折り曲げて持てる声量を振り絞った。
それに対して隊士達が一斉に振り返る。
あんなに騒がしかった食卓が静まり返り、名前に額に冷や汗が流れた。

(え?なに?!なんなのこの空気!ヤバいんじゃない?私場違いなんじゃない?)

折れた腰を戻せないまま静寂だけが流れた。
すると、聴き慣れた声が名前に負けないくらいの大きな声で

山「お、おはようございます!!!!」

と返し、それに続くように他の隊士達も挨拶を返した。
やっとの思いで姿勢を戻すと、ワラワラと隊士が集まって席までエスコートしてくれた。

「なんにしますか?」
「今日のA定食は美味しかったっスよ!」
「嫌いな物あったら言ってくださせぇ!自分が食べますんで!!」

『じゃ、じゃぁA定食で…。あ、あと』

視線が名前に集中する。

『コーヒーを…くださぃ…』

「承知しやしたあああぁぁぁあぁ!!!」

すると一斉に名前に群がっていた男たちが散った。

山「大丈夫?」

『あぁ…はぃ…まぁ……』

名前は抜けかける魂を捕まえて押し戻した。

山「あ、着物。サイズ丁度いいみたいだね。よかったぁ」

ニッコリと笑う山崎は名前の隣にお膳を置いて座った。

『え?あ、服お借りしてすみません。持ち主の方が困っていないでしょうか?』

山「あぁ平気平気っ!それ俺のだから」

『・・・・・・・え?』

聞き間違い?と耳を疑ったが―

山「そう俺の!だから困ってないから安心し…て?」

『・・・・・・・』

山「ちょっと待ってー!なんか誤解してない!?違うからね!それは変装用だから!そういう趣味じゃないからね!!」

『へっ?あ、そうなんですか。私物なんですね..』

山「人の話聞いてるぅ!!??」
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