第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
「なんだよ、ついてくんな! 」
「そうもいきません。最後までお見送りさせていただきます」
「いらねぇーよ! ガキじゃねーんだから、ほっとけよ! 」
苛立ちながらそう言うと、くつくつと笑われた。
「そうでしたな、神官殿。貴方様は大きくなられました」
言いながら、覆面の男はまだ後ろについてきた。
―― なんなんだよ! うざってぇな!
仕方なく無視を決め込んで、歩調を早めて足を踏みいれると、男が言った。
「ところで、神官殿。いつになったら、あの黒き王の器を染め上げるのですかな? 」
聞こえた言葉に思わず顔をしかめた。
ここのところ何度も言われている言葉だった。
「……放っておけよ。俺が好きなときでいいだろ? 」
「そうやって、いつまで伸ばされるおつもりですか? そろそろ頃合いなのでは? 」
「うるせぇな! あいつのことは俺に任せておけばいいんだよ! これ以上、ついてくるな! 」
声を張り上げて言い放つと、ようやくいつまでも付いてきていた男が足を止めた。
「早くあの王の器を堕とすのです。お待ちしていますよ、神官殿」
響いた声に苛立ちながら、ジュダルは足を強く踏み鳴らした。
何かあるたびに最近は、まだか、まだかと五月蠅くなってきている。
親父どもが行っている黒いジンの研究とやらが滞っているせいもあるのだろう。
金属器をもつあいつを堕転させ、早く被験体にしたがっているのだ。
別にあいつを、こちら側へ引き込みたくないわけじゃない。
真っ白なあいつを堕転させることができたら、それはさぞかし気持ちが良いことだろう。
けれど、あの白く透明度の高いルフを黒く染め上げてやろうと思うと、なぜか胸の中が痛むのだ。